AFP・宅地建物取引士として法人経営者の保険×税務相談を長年担当してきた私が、自身の法人化(2026年)を経て強く実感したことがあります。それは「退職金設計はFPと税理士を併用しなければ、片手落ちになる」という事実です。1人社長の退職金設計においてFPと税理士それぞれが担う役割と、両者を組み合わせることで生まれる相乗効果を、実体験をもとに解説します。
退職金設計でFPと税理士の併用が必要な理由
「設計」と「処理」は別物——役割分担を整理する
退職金に関する相談をする際、多くの1人社長が「税理士に任せておけばいい」と考えます。しかし私が大手生命保険会社や総合保険代理店で経営者の相談を担当してきた経験から言うと、これは大きな誤解です。
税理士が担うのは、主に「退職金をどう損金算入するか」「税務上の適正額はいくらか」という処理・判断の領域です。一方でFP(ファイナンシャルプランナー)が担うのは「何歳で法人を解散・後継するのか」「老後のキャッシュフローはどうなるのか」という生涯設計の領域です。
この2つは本来、車の両輪のような関係にあります。片方だけでは退職金設計は完結しません。AFP資格を持つ私自身も、自分の法人化にあたって両者に別々に相談し、それぞれの視点を合わせることで初めて全体像が見えてきました。
1人社長に退職金設計が特に重要な3つの理由
1人社長の退職金は、会社員と比べてはるかに設計の自由度が高い反面、自分で考えなければ誰も設計してくれません。老後の収入源として公的年金だけでは不十分なケースも多く、退職金を計画的に積み立てることが老後資金の柱になります。
また法人であれば、役員退職金を損金算入することで法人税の課税所得を圧縮できる可能性があります(適正な手続きと金額の設定が前提です。個別の事情により異なりますので、必ず税理士に確認してください)。
さらに、小規模企業共済や企業型確定拠出年金(DC)など、1人社長が活用できる制度は複数存在します。これらを生涯設計の観点(FP)と税務処理の観点(税理士)の両方から検討することで、退職金設計の精度は格段に上がります。
FP併用で見える生涯設計の視点——私の実体験から
法人化直後に気づいた「引退後の収入シナリオ」の欠落
私が自身の法人を設立した2026年、税理士との顧問契約を締結した後、ふとこんな疑問が浮かびました。「この法人をいつ、どんな形で畳むのか。そのとき自分の手元にいくら残るのか。」税理士との打ち合わせでは、当面の決算・申告・節税効果が見込まれる制度の活用について丁寧に説明してもらえました。しかしキャッシュフローシミュレーション、つまり「引退後20年間の生活費を賄えるか」という問いには、税理士業務の範囲外でした。
AFP保有者である私がFP視点で自分のライフプランを組み直したところ、「65歳で法人解散・役員退職金受取」というシナリオを設定したとき、公的年金・小規模企業共済の共済金・退職金の3本柱で老後資金を構成するプランが浮かび上がりました。これはFPの役割なしには描けなかった絵です。
AFP退職金設計で使うライフプランニングの実際
FPが退職金設計で行うのは、まずキャッシュフロー表の作成です。現在の法人の売上・役員報酬・経費の流れを整理し、何年後に法人解散・退職するかを仮定したうえで、引退後の収支を年単位でシミュレーションします。
私の場合、インバウンド民泊事業の収益サイクルを前提に、複数の引退年齢シナリオを設定しました。55歳・60歳・65歳の3パターンで試算したところ、65歳引退のシナリオが小規模企業共済の共済金受取(退職所得として課税)と組み合わせたとき、手取り総額で比較的有利になることが分かりました(個別の税務判断は税理士が行います)。
このように「何歳で退職するか」という生涯設計の軸をFPが定めることで、税理士が「その前提で役員退職金の適正額・損金算入のタイミングを逆算する」という協業が生まれます。
税理士が担う損金算入の判断——FPだけでは踏み込めない領域
役員退職金の適正額と功績倍率方式の実務
役員退職金を法人の損金として計上するには、税務上の適正額の範囲内であることが求められます。実務では「功績倍率方式」が広く用いられており、「最終月額報酬 × 在任年数 × 功績倍率」で計算した金額が目安になります。功績倍率は役職・会社規模によって異なりますが、代表取締役であれば3.0前後が一般的な目線とされています(ただし同業他社比較や会社規模等により判断が変わります。最終判断は必ず担当税理士へ確認してください)。
私が顧問税理士と打ち合わせした際、「退職金額が適正範囲を大幅に超えると、税務調査で否認されるリスクがある」という説明を受けました。適正な処理であれば問題が生じにくいですが、金額・時期・手続き(株主総会議事録等)がすべて整っていることが前提です。この判断はFPではなく税理士が行う領域であり、ここに税理士を関与させる本質的な理由があります。
小規模企業共済と退職所得控除の組み合わせを税理士と確認する
小規模企業共済は、1人社長が活用できる退職金準備制度として広く知られています。月額掛金は最大7万円(年間84万円)で、掛金全額が所得控除の対象になります。また共済金は退職所得として受け取れるため、退職所得控除(勤続年数 × 40万円、20年超は70万円加算)の恩恵を受けられます。
ただし、役員退職金と小規模企業共済の共済金を同一年度に受け取ると、退職所得控除の計算方法が複雑になるケースがあります。所得税法の規定上、同一年に複数の退職所得がある場合の控除額計算には注意が必要で、この判断を正確に行えるのは税理士です。私自身も顧問税理士に「受取年をずらすか、同一年にまとめるかでどちらが有利か」を確認し、シミュレーションしてもらいました。広告代理店の税理士顧問選び|1人社長が月額5万円で契約した実体験
私がFP・税理士の両者を併用して得た5つの相乗効果
相乗効果①〜③:設計精度・税務安全性・制度活用の幅
実際に両者を併用して感じた1つ目の効果は、設計の精度が上がったことです。FPが描いた「65歳退職・手取り○千万円」というゴールに向けて、税理士が毎期の役員報酬・積立額・退職金額を逆算してくれるため、「今期どう動くか」が明確になりました。
2つ目は税務リスクの低減です。退職金の損金算入は適正な手続きと金額設定が大前提で、税理士が関与することで議事録作成・適正額の確認・申告書への反映まで一貫して管理されます。個人で判断するより税務上の安全性が高まります。
3つ目は制度活用の幅が広がったことです。小規模企業共済に加え、法人で加入できる生命保険(保険料の損金算入が認められる範囲で)や確定拠出年金(iDeCo+等)を組み合わせる選択肢を、税理士がフラットに比較・提示してくれました。これはFP単独では「制度の紹介」で止まっていたところが、税務処理まで含めて判断できた点で大きな差がありました。
相乗効果④〜⑤:コスト感覚と意思決定スピード
4つ目の効果は、費用対効果の見通しが立ちやすくなったことです。私の顧問契約は月額3万円台(決算料別)で、年間を通じて退職金設計を含む税務アドバイスを受けられています。FP相談は自身がAFP保有者であるため自己活用していますが、外部のFPを活用する場合でも相談料は1〜2時間で1万〜2万円程度が一般的な相場感です。両者を使っても費用対効果の面で十分に見合うと感じています。
5つ目は意思決定のスピードです。役員報酬の変更・退職金の受取タイミング・共済の増額といった判断を、FP的な生涯設計の軸と税理士の税務判断を組み合わせることで、迷わず動けるようになりました。どちらか一方だけでは「生活設計は分かるが税務が不安」「税務は正しいが老後のプランがない」という片手落ちに陥ります。顧問税理士は50代60代で違うか|1人社長が4名面談で実感した5視点
相談前に準備すべき3つの資料と、税理士の探し方
FP・税理士に相談する前に整えておく3つの情報
両者への相談をスムーズに進めるために、私が実際に準備した資料をお伝えします。まず1つ目は「現在の役員報酬と法人の利益水準」です。直近2〜3期分の決算書または試算表があると、退職金の適正額計算の前提が整います。
2つ目は「引退・法人解散のイメージ年齢」です。漠然とでも構いません。「55歳には引退したい」「70歳まで現役でいたい」というイメージがあるだけで、FPもシミュレーションを組みやすくなります。
3つ目は「現在加入している保険・共済・年金の一覧」です。小規模企業共済の掛金月額・加入年数、生命保険の死亡保険金額・解約返戻金の見込みを把握しておくと、退職金設計全体の空白と重複が見えやすくなります。私は法人化直後の税理士面談時にこの3つを持参したことで、初回打ち合わせがスムーズに進みました。
まとめ:退職金設計はFPと税理士の両方に相談することが有効な選択肢です
- 退職金設計における「生涯設計の軸」はFPが担い、「税務処理・適正額の判断」は税理士が担う
- 1人社長の退職金は小規模企業共済・役員退職金・公的年金の3本柱で設計するのが有効な考え方
- 役員退職金の損金算入には功績倍率方式による適正額の確認と、株主総会議事録等の手続きが必要(詳細は税理士へ)
- 小規模企業共済と役員退職金を同一年に受け取る場合は退職所得控除の計算に注意が必要(所得税法の規定。税理士へ要確認)
- 月額顧問料3万円台でも退職金設計を含む年間税務サポートを受けられる事務所は複数存在する
- 相談前に「役員報酬・引退イメージ年齢・現在の保険・共済一覧」を整えておくと初回相談が格段にスムーズになる
AFP・宅建士として法人経営者の相談に関わってきた私が、自身の法人化を経て確信したのは「退職金設計はFPと税理士の両者への相談が有効な選択肢である」ということです。どちらか一方だけでは視野が限られ、設計の精度も税務上の安全性も十分ではありません。
税理士選びに迷う1人社長の方は、まず複数の事務所を比較することをおすすめします。退職金設計や役員報酬の最適化に知見のある税理士を見つけることが、長期的な法人経営の土台になります。個別の税務判断や申告については、所轄の税務署または担当税理士へ必ずご確認ください。
税理士をお探しなら『税理士探しの強い味方 税理士紹介エージェント』
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の投資・税務・法務行為を推奨するものではありません。記載内容は執筆時点の情報に基づきますが、最新情報や個別具体的な判断については、各分野の専門家(税理士・弁護士・宅建士・FP等)または公的機関にご相談ください。
【執筆・監修】
Christopher(AFP / 宅建士 / TLC)- 金融・不動産・法人実務の実体験ベースで執筆
本記事のリンクはアフィリエイトリンクを含みます。
